第12章 IN CHENNAI 6  


列車で次の町に向かうのは翌朝だ。
今日の宿をここチェンナイで確保しなければならない。


まず駅の近くにあった1件目の安宿で宿泊交渉をするが
どうやらドミトリー(大部屋)しか空いてないらしい。
ゆっくり休みたかった我々は却下。
2件目のYMCAも
宿の周りをぶらぶらしてた、お前ほんとに従業員か?というような男に
今日は満室だと言われあきらめる。
そして我々は歩きに歩き
駅から2キロほど離れたサルベーションアーミーに泊まることにした。
サルベーションアーミーは救世軍の経営する宿舎だ。
予想通り部屋は暗く汚なかった。
ファンは無く小さな扇風機だけ。
窓は鉄格子だしまるで牢屋のようだ。
そしてその鉄格子の隙間から容赦なく蚊が侵入してくる。
乾季とはいえマラリヤはさすがに怖いので
大量に持ってきた蚊取り線香が大活躍の
とてもステキな宿だ。



我々は荷物を置き、近くの繁華街に夕食を取りに出かけた。
ちょっとこじゃれたレストランでマトンカレーを食う。
宿に戻る途中も繁華街を通って帰ったが
裸電球の薄暗い光の中、路上はたくさんのインド人でごった返している。
外国人はほとんどいない。
M上ととりとめのない話をしながら歩いていると
ふいに誰かに左腕をつかまれた。




振り返ると5歳くらいの女の子が俺の腕をつかんでいる。
その手は驚くほど冷たい。
そして手を口に持っていくジェスチャー
「5ルピー!バクシーシ。」
と言っている。


バクシーシ(喜捨)は簡単に言えば施しのようなものなのだが、
話には聞いていたものの実際に体験するとものすごく困惑してしまう。


頭の中で今まで経験したことの無いような葛藤があった後
俺はお金を渡すことを断り歩き出した。
しばらく女の子も追ってきたものの、
途中で母親であろう女性に呼び止められ引き返していった。


よく見渡すと足の無い人、腕の無い人、足が3倍くらいに膨れた人など
いろんな人が路上に横たわっている。
目があうと「バクシーシ。」


これもインド。


複雑な感情を抱きながら宿に戻り
相変わらずのうだるような暑さの中
我々は眠りについた。




     つづく