またインドに行きたくなってきたので、昔書いた記事をまた載せる  その1 


インド旅行記 ― 第四部 ―  

第7章 マドゥライ、ナガルコイル、そして聖なる岬へ  



「パウさん・・・パウさん・・・。
 起きてください・・・パウさん・・・。」


・・・・・


ん・・・なんだ・・・?


ナベタクにゆすり起こされる。
目を開けるが視界はまだ暗い。
徐々に列車の音と揺れが意識の中に戻り
列車がまだ走っていることに気づく。


「パウさん!4時20分っす!!」


ん・・・あぁ・・・
・・・4時20分・・・。
・・・・・
・・・4時20分?!
ナゴルコイル到着予定は4時10分のはずだ!


・・・寝過ごした??!


「やばくない?!いまどこ?!」


「わかんないっす!」


目覚ましは・・・
あ、スイッチOFFになってる・・・。


枕元が騒々しくなったせいか
U君も目を覚ます。


「U君!4時20分だよ!」


「え・・・うん・・・。
 ・・・・・
 ・・・あれ?!到着4時10分じゃなかったっけ?!
 ここどこ?!」


「わかんない・・・。」


「どうする?次の駅で折り返す?」


「いや、それも微妙じゃない?
 折り返しがナガルコイルに止まるとは限んないし。
 それよりはせいぜい数10キロしか離れてないはずだから
 次の駅でバスかリクシャーって手も・・・。」


「地図で調べてカニャークマリまでの距離が近いところで
 降りてみるか・・・。」


「・・・それが一番無難かなぁ・・・。
 まぁ、到着が遅れてるっていう可能性もあるし
 今どこか調べてみよう。」


我々の斜向かいのベッドの上では
ヒゲ面のおっちゃんが早くも目を覚まし
荷物をバッグに詰め込んでいるところであった。


最小限の英語で尋ねてみる。


「ハロー。・・・ナガルコイル?」


「ナゴルコイル?ネクスト!」


ネクスト?」


ネクスト。」


「ディレイ?」


「ディレイ。」


「オー・・・サンキュー!」


ラッキーだ!
どうやら到着が遅れてるらしい。
ついさっき起きたばかりの様子のおっちゃんが
なぜそのことを知っているのか疑問だったが
おっちゃんの言うとおり
30分後に列車は減速。


我々は窓の外に目を注ぐ。
インドの鉄道では基本的に車内アナウンスなど無い。
目的地に着いたかどうかは
人に聞いて
駅の看板を見て判断するしかないのだ。


小刻みに揺れながら
ゆっくりと流れる窓の外の闇。
その中で淡い光に照らされ
浮き上がる看板の文字。
NAGERCOIL。


「ナガルコイルだ!!」


4時40分。
列車は30分遅れて
ナガルコイル・ジャンクション駅に到着した。
さすが遅延大国!
インドの鉄道万歳!!


さて、運良く到着はしたが
ナガルコイルの情報はまったく無い。


真っ暗な駅前では
何台かのリクシャーが止まっており
リクシャーワーラー達が座席で丸まって
ぐっすりと眠っている。
その中で早くも目を覚ましている仕事熱心なひとりに声を掛け
バス乗り場まで連れて行ってもらう。
3人で30ルピー。
距離どころか場所すら分からない上に
周りを見渡せば真っ暗闇。
値段交渉のしようも無い。


リクシャーは5分もしないうちに
バス乗り場に到着。


バス乗り場は小学校のグラウンドのようになっていて
裸電球を灯した売店が1軒だけ営業している。
その広場にバスが慌ただしく何台か入ってきては
ろくに停車もせず客を乗せ
すぐに出て行っていた。
乗り場はもちろん行き先によって何箇所かあるようだったが
その中のひとつの前で
小さなドラムバッグを携えて立っていた南インド系のおっちゃんに声を掛ける。


「ハロー。・・・カニャークマリ?」


「ウェイト!」


え?なに?待つの?


その瞬間バスが砂煙をあげて目の前に止まる。


「カモンッ!」


え?なに?乗るの?


訳も分からぬまま
言われるがままバスに乗り込む。


我々が乗ったと同時
席に座るのも待たず
バスは強烈な加速で発進。


寝坊して起きてから1時間。
まだまだ覚醒していない意識の中
30分後、半分寝ながらカニャークマリに到着。


バスを降りた直後
声を掛けてくる客引き。


おいおい・・・まだ5時過ぎだぞ?!


頭はまだ動いていない。


とりあえず
客引きにガイドブックにあったマニッカムに連れて行ってもらう。


眼を覚まそうと
道中、自転車に乗ったチャイ売りから
チャイをもらう。


チャイを飲みながら歩いているうちに
ホテル・マニッカムに到着。


「ジャパニ!チップ!100ルピー!!」


あほか?!
チップで100ルピーも渡せるか!
調子に乗ってぐいぐい要求してくる客引き。
ぼんやりした意識の中とりあえず20ルピーだけ渡して
そのままマニッカムにチェックイン。


6時。


間に合った。
日の出に。



屋上から日の出が見れるらしい。


寝ぼけ眼で屋上に上ると
海が見えた。


真っ黒いベンガル湾


真っ黒な海の上に横たわる空は紫色。
それが次第に乳白色に変わり
黒い海からぽつぽつと
漁船があぶり出しのように視界に浮かび上がってくる。
日の出を待ちわびていたかのように
聞こえ始めるカラス、ウミネコ、ニワトリの鳴き声。


教会の鐘が鳴る。
それにあわせて響き始める子供達の歌声。


カニャークマリ
「聖なるコモリ」と呼ばれるこの町の日の出は
眩しすぎず
水平線の向こうに被さった雲の奥から
輝けるオレンジ色の液体が滲み出しているようであった。


やがて雲間から陽は昇りきり
空にぽっかりとオレンジ色の穴が空いたころ
そこから滝のように零れ落ちる光で
ベンガル湾が朱に染まっていく。


カニャークマリの1日が始まる。








つづく