その6 カニャークマリ ― インド ―


インド最南端に
インドで唯一、太陽が海から昇り
海に沈む場所がある。
それがコモリン岬ことカニャークマリだ。
太陽は東のベンガル湾から昇り
南のインド洋上空を経て
西のアラビア海の沈む。
カニャークマリは
ベンガル湾、インド洋、アラビア海
3つの海が交わる場所でもあるのだ。
いや実に聖地らしい。


飯が美味いのも良い。


朝はチャイとバナナだ。
南インドにはレッドバナナというバナナがある。
皮が赤く、普通のバナナよりひとまわり太いこのレッドバナナは
とろりとした舌触りでカスタードのように甘い。
逆に小ぶりな黄緑色の皮のバナナは
香りが強くさわやかな甘みがある。


昼はホテル・ナンダーナーのミールスが良い。
蒸し暑くハエが飛び交う安食堂だが
ここのミールスは今まで食ったなかで一番美味かった。
ミールス南インドの定食。
この店ではバナナの葉の上に薫り高いライスが盛られ
いわゆるカレーと、ポリヤルというインド風野菜炒め、
オレンジのアチャール(インド風漬物)、パパドという薄い煎餅的なものがセットだ。
追加料金30ルピー(当時60円)でチキンかフィッシュを付けることも出来る。
チキンは骨付きモモ肉をスパイスで煮込んだもの。
フィッシュはスパイスで包んで丸上げしたものだ。
海がすぐそばということもあり
特にフィッシュが美味い。
辛く芳ばしくパリパリの皮に
肉厚でほくほくの白身
それをカレーやライスと混ぜて
右手で温かさを感じながら口に運ぶのがまた楽しい。


夜はBARへ。
ジンジャーチキンを頼んでおけば
間違いは無い。
夜でも蒸し暑い南インドでの
最初の一杯のキングフィッシャービールは格別だ。


聖地であり観光地でもあるが
町自体はハイデラバードやヴァラナシのように人でごった返すこともなく
思いのほか静かだ。
クマリ・アンマン寺院近くのみやげ物屋が並ぶ仲見世通りも
夜に覗けば煌びやかで
田舎町の縁日を思い起こさせる。


観光場所といえば
海に浮かぶ巨大な岩、ヴィーヴェーカーナンダ岩と
その上に建てられた記念堂ぐらいだが、
朝陽を眺めて
チャイを飲んで
ぶらぶらして
海を見て
部屋でだらだらして
飯を食って
少年達のクリケットを見て
本を読んで
夕陽を眺めて
帰りにみやげ物屋を冷やかしてビールで乾杯。
それはそれで贅沢な一日だ。
ゆっくりと時間が流れ
のんびりと過ごせる
旅の疲れを癒してくれる町。
確かに聖地だ。