第8章 ― カイ・カタ ―


4日目の朝。
今日も汗だくで目が覚める。


シャワーを浴び、歯を磨き、服を着替え
朝食を採りに出かける。


当たり前だが外に出るとさらに暑い。
朝の光を浴びながら
ウドン・ターニーのメイン通りをぶらぶらと歩く。
まだ8時前だというのに
じりじりと焦がすような日差し。
ついさっきまで濡れていた髪が乾き
おまけに早くも汗ばんでいる。
さわやかな朝とは程遠い。


道路脇にある店を物色しながら歩いていると
カラフルな看板が視界に飛び込んできた。


看板には大きな目玉焼きの写真が貼られている。


卵料理には目が無い。
インドでも中国でもインドネシアでも
旅先での卵はどれも美味かった。


店に入って席に着き
文字通り看板メニューの目玉焼きを頼む。


店のおっちゃんが
「コレもどうだ?」
というふうに、トングで挟んだクロワッサンのような形のパンを見せてきたので
それも一緒に注文する。


おっちゃんとおばちゃん、
夫婦で切り盛りしている店のようだ。
店先のオーブントースターのような機械で
おっちゃんが絶え間なくパンを焼いている。
時折、店先に客がやってきて
おばちゃんと世間話をしたあと
焼きたてのパンを買って帰っていく。


10分ほどして
料理が運ばれてきた。
目玉焼きは
銀色の浅い鍋にぴったりと収まって出てきた。
卵は2つ使用しているようだ。


目玉焼きから口に運ぶ。


美味い。とろっとろの半熟だ。黄身の味が濃い。
滋味溢れる味だ。
辛いもんばっかり食ってきたのでこれは嬉しい。
目玉焼きの上には様々なトッピングが乗っている。
薄く切ったカリカリのソーセージ、
柔らかい魚肉ソーセージの薄切り、
あとは細かく刻んだ塩気のある挽き肉や野菜、
糸くずを丸めたようなものは
どうやらカツオかなにかの削り節のようだ。
口に含むとさっと溶けて
甘みと、ふんわりとした香りが広がる。


この糸のように細いカツオブシのようなものは
パンにも挟まれていた。
外はカリカリ、中はもっちりの焼きたてパン。
カツオブシの甘みとパンの甘みが合わさり
不思議な美味しさだ。


やさしい朝食。
33バーツ。
パン1個が3バーツということだろうか。


帰りにバスターミナルに寄ってみる。
次の目的地は決めていた。
ウドン・ターニーの西、100キロ、
ルーイだ。
ウドン・ターニーからは
バスでの移動となる。


窓口のおばちゃんに
「ルーイ!」
と告げてみる。


思い切りしかめ面をされる。


まったく言葉が通じない。


様々なイントネーションで「ルーイ、ルーイ」と連呼してみるが
どんどんおばちゃんの機嫌が悪くなっていくのがわかる。
最終的には
「ルーイ、ルーイってわかんないわよ!なんなのよ?!あんた?!」
みたいなことを言われたため
あきらめて宿に戻ることにする。
これはガイドブックの地図なりメモなり文字を見せながら話すしかない。



宿をチェックアウト。
荷物を背負い再びバスターミナルへ。
ガイドブックの地図を見せながら目的地を告げ
今度は通じたが結局、ルーイ行きのバスは
この長距離バスターミナルではなく
5キロほど離れた新バスターミナルから出ることがわかる。


「ルーイ」の発音だけ覚え
駅前でサームローを捕まえ、新バスターミナルに向かう。


このサームロー、でかい。
インドのリキシャーやバンコクトゥクトゥク
せいぜい50ccから100ccの三輪バイクといった感じだが
今乗っているサームローは
750ccくらいのバイクに
無理やり馬車のカゴ部分をくっつけた感じだ。
馬力が違う。
スピードも出る。
その分揺れる。
座席は常に小刻みに振動している。


二度、天井に頭をぶつけている間に
新バスターミナルに到着した。


先ほどのバスターミナルより
小奇麗な感じだ。


「ルーイ!」


今度はちゃんと通じた。


チケットを買う。
93バーツ。



10時50分。
バスは走り出した。





― つづく ―