第6章 ― 何も無い1日 ―


コラート鉄道駅。
午前9時。
駅の窓口には2人しか並んでいない。
これがインドや中国の駅だったら
チケットを取るために優に1時間は並び続け
当然のように割り込むやつらにイライラしながら順番を待つことになるだろう。
駅自体も日本の田舎駅を思い起こさせるような
こじんまりとしたものだし
やはりタイはバス移動文化なのかもしれない。


10分も待てば、すぐに順番が回ってきた。


窓口にはハンサムで若いタイ人。
意外と英語をしゃべらないタイ人が多いなかで
かなり聞き取りやすい英語を話す。
コンピューターでの予約状況の検索の仕方にしても、
俺への説明の仕方にしてもかなりセンスが良い。
こいつ、できる。


コラート13時13分発、
ウドーン・ターニー18時10分着の2等チケットを購入。
350バーツ。


駅からの帰り道、朝市を見つけたので
朝食を買って帰る。
ホットドッグ、25バーツ。
それにコンビニでヨーグルトとグァバジュースを買い足して
ホテルの部屋で朝食を採る。


部屋でごろごろと今後の予定を考えていると
帰りの列車ももう予約しておいたほうが良いのではないか
と思い始めた。
コラートに来たのはここが東にも北にも行きやすく
中継地として持って来いだったからだ。
だが、先ほどウドン・ターニー行きのチケットを買ったことで
東ルートは無くなった。
今後、北のどの町に行くにしろ
ウドン・ターニーからバンコクに戻ることになるだろう。


正午になるのを待って
宿をあとにした。



駅へ向かう道の途中にあった屋台で
ひき肉系の昼食を採る。
いや、うまい。
わずか30バーツでうまい。
タイの飯はまじでハズレが無い。



駅の窓口は先ほどより混んでいた。
5つある窓口のうち空いているのは2つ。
その2つの窓口に5、6人ほどが並んでいる。


先ほどのハンサムなタイ人は窓口にいない。
ガラス戸で仕切られた窓口の奥に目を向けると
先ほどのタイ人はイスに座ってくつろいでいる。
休憩中だろうか。


列車の出発予定時刻まで、あと30分を切っている。
列の後ろに並びながら
きょろきょろ落ち着かなくしていると
窓口の奥のハンサムタイ人と目が合った。
おもむろにハンサムタイ人は
3番窓口を開ける。
そしてこちらを指差したあと
人差し指をくいくいっと曲げ
俺を呼ぶ。


逆指名制なのか・・・?


列に並んでいるタイ人達を横目に
3番窓口へ。


ともあれハンサムタイ人のおかげで
列に並ぶことも無く
スムーズに列車のチケットをゲット。
ウドン・ターニー⇒バンコク
2等寝台、739バーツ。
エアコン付きの安宿1泊分と大差無い料金と考えると
やはり安い。



売店でコーラを買って
ホームで列車を待つ。


定刻を10分ほど過ぎたころ
ホームにアナウンスが流れた。
周りのタイ人達が次々と立ち上がり
線路の先へ目を向ける。
列車が来るようだ。
足元のリュックを拾い上げ
ベンチから腰を浮かす。
立ち上がるとき
背中が汗でぐっしょり濡れているのに気付く。
暑い。
線路が低く鳴り響く。
遠くの地面は暑さでゆらゆらと揺れている。


靄がかった視線の先、
ぼんやりとオレンジ色の車体が姿を現した。








― つづく ―