― 第2章 ― カオサンロード


Yアサ氏は15分ほど遅れて
約束の場所に現れた。


あのあとタイの公衆電話に絶望しながら宿に戻り
もう一度Gメールをチェックしたところ
Yアサ氏から返信があったのだ。


カオサンロード入り口の
バーガーキングの前、20時20分。
そう約束して宿を出た。
そのあとYアサ氏は律儀に渋滞のため遅れる旨をメールしてくれていたようだが
俺の携帯は通話はおろか、Wifiスポットでないとメールすらチェック出来ない。
連絡手段無しで待ち合わせる不安感を10数年ぶりに味わったが
なんとかYアサ氏と再会することが出来た。



それにしても暑い。
夜だというのに30度は優に越えている。
ここがビーチなら海風が心地よいのだろうが
ここカオサンロードの両脇は、建物に遮られ、無風。
煌めく電飾や路上に溢れかえる人々の熱気も
暑さを増加させているように思える。


こうなってくるともうビールしかない。
道の両脇には、ビーチ沿いによくあるタイプのオープンエアーのレストランが並ぶ。
そのうち適当な1軒に目を付け、路上まではみ出したテーブルのひとつに着く。


「ビールは何リッターにする?」


バドガールならぬハイネケンガールの格好をしたタイ人のおねぇちゃんが
リットル単位でビールの注文を聞いてくる。


とりあえず2人分として3リットルを注文すると
テーブルに小型のビールサーバーが運ばれてきた。
これはなかなか良い。
タワー型の透明な筒の中にビールが輝いている。
筒は2層になっていて
ビールの内側、中心の筒には氷が入っている。
これならビールもぬるくならない。
もちろん上部は蓋で閉じられているので炭酸も抜けないわけだ。


注ぎ口のコックに付いているレバーを倒し
冷たいビールをジョッキに注ぐ。
つまみは空芯菜炒め、揚げ魚、ヤムウンセン。
どれも辛いがビールとの相性抜群。


途中からはジョッキに氷を入れ
そこにビールを注ぐ。
氷入りビール。これがタイスタンダードらしい。
凄まじい暑さのため氷はすぐに溶け
ビールは薄まってしまう。
だがそれが逆にタイ料理にあう気もする。
なによりこの暑さ。
唐辛子の効果も相まって
汗が止まらない。
そこへがぶがぶ飲める氷入りビール。
これがたまらない。
汗でアルコールも抜けるのか
悪酔いもしない。


店の片隅では
タイのミュージシャンがギター片手にロックミュージックを歌っている。
アンプを通しての大音量での弾き語り。
スティングの「イングリッシュマン イン ニューヨーク」。
歌詞のところどころを英国人からタイ人に置き換えている。
席はほぼ満席。
歌声の後ろで絶えず流れる欧米人やタイ人たちのざわめき。
華やかで、にぎやかで、煌びやか。
かつてバックパッカーの聖地と言われたカオサンロードは
いまや一大繁華街。
誰もが顔を赤くして、誰もが笑っている。
ひとりでこの通りをうろうろするのは
もはや寂しすぎて無理だが
友人たちと過ごすならこんなに楽しい場所も無いなと思う。



3時間ほど飲み続け
最後はトムヤムクンで締めて
2軒目を探すことにした。


道すがら、露店でサンダルを買うことにする。


適当なサンダルを手に取り
店のおばちゃんに値段を聞くと200バーツだと言う。


「ちょっとまけてくれない?」


「ダメダメ200バーツだよ!」


「いやぁちょっと高いなぁ。」


「じゃ190バーツだ。これ以上まけないヨ!」


「190かぁ・・・。」


おばちゃんと値段交渉していると
店の奥でTシャツを見ていたYアサ氏が戻ってきた。


「あ、これ俺のやつと色違いですね。」


Yアサ氏の足元を見ると
確かに同じデザインのサンダルを履いている。


「ほんとだ。ちなみにこれいくらした?」


「たしか・・・150バーツぐらいです。」


「OK!150バーツ!ラストプライス!」


おばちゃん反応早ッ!!
そして決断早ッ!!




つづく