第18章 ゴールド・エクスペリエンス


O野峰が限界だ。


気温30度。
見渡せばヤシなども立ち並ぶ
南国情緒溢れるマドガオンの駅で
毛布に包まり震えている。


どうやら本格的に風邪をひいたらしい。
あきらかに辛そうだ。


我々は
ドガオンの駅前で
とりあえずプリペイドタクシーのチケットを買い
順番待ちをしていたタクシーに乗り込む。


どこに行こう・・・。
O野峰の体調を考えると
そう遠出も難しい。


ガイドブックを覗き込む。
一番近いのは・・・
ここか!


「コルヴァ・ビーチに行ってくれ!」


「OK!」



タクシーはガタガタ揺れながら
ヤシの木と畑が続く農道を通り
15分ほどでゴアのコルヴァ・ビーチに到着した。


「ジャパニ、着いたぞ。」


目の前のビーチを見て驚いた。
ここは・・・。


タクシーの外に広がっていたのは
7年前に立ち寄ったビーチそのものであった。
7年前適当に選んだビーチに
偶然にも再び戻ってきたのだ。


「おぉ!あんときのビーチはコルヴァ・ビーチって言うのか?!」


ビーチの様子はほとんど変わっていない。
バス停があるビーチ前の広場には
7年前と同じようにドーサ売りが屋台を構え
広場から砂浜へ続く道
立ち並ぶヤシ
そして砂浜から広がる海の色さえも
思い出の中の景色と重なる。
その懐かしい景色に心躍る。


・・・っと
それよりも宿だ。
O野峰を早く休ませねば。


再びタクシーに乗り込み
ビーチ近辺の宿を巡る。


安宿を何件か巡ったが
どこも混んでいてチェックイン出来ない。
7年前の宿を探してみようかとも思ったが
さすがに水シャワーだと
さらに風邪を悪化させてしまうだろう。


そのうちに辿り着いたのが
スカイラーク・リゾートという名の
ロッジだった。


明らかに
ビーチリゾート的な門構え。


「部屋を見せて欲しいんだけど・・・?」


フロントを抜ける。
中庭が広がる。


「うぉっ?!プール!!?」


プールだ!!
プールサイドにはマッカーサーっぽい白人が
手元にトロピカルなカクテルを携えてのけぞっている。
その傍でバタ足を続ける
娘と思しき子供。
なぜ金持ちは近くに海があるのに
プールに入るんだろう。


部屋のドアもまともだ。
鍵が安宿定番の南京錠ではない。


ドアを開ける。


「なんだこりゃ?!ベッドにカーテンがついてやがる!?」


「エアコン?!」


「冷蔵庫?!!」


「う、薄型テレビィィィ?!」


全然・・・俺の部屋より良い。


「あの〜・・・ここいくら?」


「3000ルピー!」



!!
ひとり1000ルピー?!
およそ1週間分の宿代だったが
最後の宿ぐらい贅沢をという思いと
3人の体調を考慮してチェックイン。



しばらくエアコンの効いた宿で
だらだらと休み
O野峰の体調が若干回復したところで
漁れたてのシーフードを味わうため
ビーチへと繰り出す。



繰り返す波の音。
踏みしめる砂の音。
その二つも実に心地よかったが
ビーチにはもっと素晴らしいものが待っていた。


アラビア海に沈む夕陽。
水平線の彼方に橙色の太陽が
零れ落ちようとしている。
赤く照らされた海には
数隻の漁船やヨットが寂しく浮かぶ。
波打ち際に集まるインド人達。
砂浜には
引き波から取り残された大きな水溜りが
広大な空に浮かぶ金色の雲を映す水鏡となり
まるで夕焼けが眼の前全てで広がっているようであった。


黄金の都の
黄金の夕焼けか・・・。


明日の昼過ぎには
ゴアを発つ。


そして
明後日には日本だ。


次にこんな美しい夕陽を見るのは
何年後になるだろう。
もしかしたら
これが最後かもしれない。


あっという間に吹き抜けた1週間と
やがて水平線の向こうに消えてしまう
儚い夕陽が
寂寥感を掻き立てる。



・・・よし!
最後の晩餐じゃぁぁぁぁ!!!











つづく