インド旅行記 ― 第三部 ―  第3章 雨のタミル・ナードゥ


チェンナイは
雨だった。



雨のインドは初めてだ。
ここチェンナイがあるタミル・ナードゥ州は
東北モンスーンの影響を受けて
現在雨季である。
インドの雨季といえば
路上が水で浸かり
下水が逆流し
コレラマラリヤ大流行と聞いていたが
想像していたほどでもなく
とても旅が出来ないほどでもなかった。
ただ、そこは南インド
雨で地面が冷やされ涼しくなるということもなく
蒸し暑さとインド独特の匂いが増しているようにも思える。



さて・・・宿だ。


今回もいつもと同じく1泊目の宿すら予約していない。
我々は相変わらず国際空港とは思えないほど簡素なチェンナイ空港を出て
プリペイドタクシーのカウンターに直行した。


行き先はマハーバリプラム。


そう、我々は南インドの中心都市チェンナイでの1泊を後回しにし
チェンナイの南60キロ
ベンガル湾に臨む小さな町マハーバリプラムに向かうことにした。


チケットを購入しプリペイドタクシー乗り場へ向かう。
深夜にも関わらず、そして雨にも関わらず
インドの客引き達は今日も元気だ。


客引きを振り払って目的のタクシーへ。


タクシーに乗り込んだ直後
雨が激しくなった。
今までの日本の梅雨のようなシトシト降りから
急に南国を思い浮かばせるスコールのような激しさへ。


タクシーが走り出す。


深夜といえども
車窓から見える景色は3年ぶりにインドを訪れたということを実感させてくれる。


町並みや
窓から雨と共に漂ってくる匂いもそうだが
なによりそれを実感させたのは
『牛注意!!』の道路標識。


ん〜〜・・・インドだねぇ。
バスが急停止したり
列車が3時間も4時間も遅れるのも
全て牛のせいのような気がする。


降り続ける雨。


インドと久しぶりに再会したためか
日本を離れたためか
それとも
ただ、雨だからか・・・
若干感傷的な気分になり
車内は無言のまま
1時間ほどしてタクシーはマハーバリプラムに到着した。


とりあえず
ガイドブックに乗っているシーブリーズというホテルに向かってもらう。


もう3時だ。
暗いロビーには従業員と思われるインド人達が
何人もすやすやと熟睡している。


「ヘイッ!ヘイッ!!!」


その従業員達を叩き起こすタクシーの運転手。


うーーーん。
熟睡している人達を叩き起こすのには少々気が引けたが
彼らも仕事。
これがインド式ということなのだろう。


目をこすりながら
我々を認識する従業員。


「ルーム?」


「イエス!部屋を見せてくれ。」


毎日初めての宿に泊まるようなインド個人旅行では
まず泊まる前に部屋を見せてもらうのは基本だ。


通された部屋は
ツインベッドルーム。
広い。
そしてなんとテレビ、エアコン付き。


インドでエアコン付きの部屋にお目にかかるのはこれで2回目。
宿代は1泊1200ルピー。約3500円。
こんな高い宿は初だ。


だが、右も左もわからぬマハーバリプラム1泊目
深夜3時。
しかも連れのO野峰は初インド
中JOEに至っては初海外だ。
少し贅沢だが
我々はここに泊まることにした。


部屋はもちろん快適だった。
安宿では木のベッドに敷布団を敷いただけの硬いベッドが多い中
ここはスプリングが効いた寝心地の良いベッド。
壁に飾られたまったく無駄と思える絵画。
バルコニー。
トイレは水洗。
ホットシャワー付き。
蚊取り線香まで付いている。


インドの洗礼とも言うべき
不浄の左手発動のトイレを済ませた後
折角のホットシャワーを浴びてみることにした。


赤い印の付いた蛇口を回す。
壁から生えているシャワーヘッドから
熱いお湯が出てくる。


いやー、やっぱりお湯のシャワーは良いね!
窮屈な飛行機での疲れが取れる!
明日からまた頑張れるぞー!!


が、30秒後。


ゴッ、ゴッッ、ゴッッッ・・・プシュー・・・。
チョロチョロ・・・。


わずか30秒にして
いやーーーーな音を立てるシャワーヘッド。
お湯は・・・もう出ない。


えっ?!
終わり?!!
ホットシャワーもう終わり?!!


・・・・・


ホットシャワー初号機、活動限界です!!!



高い宿代を払ったのに
あっという間に使い物にならなくなったホットシャワー。
仕方なく水シャワーを浴びて
ベッドに倒れ込む。
エアインディア機内からぱくってきた毛布をかけ
眠りにつく。


快適だ。
エアコンというのは実に素晴らしい。


じゃんけんで負けたO野峰は
とてもベッドとは言い難い
エクストラベッドという名の
ただのマットレスの上だ。


かわいそうに。









つづく