【2章編】パン工場追記

インドに行くために
まず飛行機のチケット代が必要だ。


手っ取り早いのが日雇いバイト。


そして日雇いバイトといえば
パン工場


電車を乗り継ぐことおよそ1時間半。
東京都外にそのパン工場はあった。


まず事務所のような所に通され
白衣、手袋等をもらい
更衣室で着替える。


着替え終わったら工場内部へ。
細かいゴミを落とすため
入り口で四方八方から風を吹き付けられる。


さらに奥へ向かうため
白い壁に挟まれた閉鎖的な通路を
ゆっくりと進み
右へ曲がり
扉を開け
また進み
左に曲がり
螺旋階段を下り・・・
まるでバイオハザードだ。


工場内部中央の開けた場所で
各々チームに振り分けられる。


以下、俺とM上が行った仕事一覧。


ピザまん(焼印係)


ピザまんというのは実にデリケートだ。
そのままではあんまんと区別がつかない。
よって焼印をつける。
「ピザ」と。
焼印が薄いとそれがピザまんであると判りにくいし
濃すぎるということは焦げによって味が損なわれてしまっている。
実に繊細な作業である。


ピザまん (シート敷き係)


焼印を押された後は
ピザまんを25個にまとめておかなくてはならない。
ケースの中にただ5×5に並べるのではあまりにも不衛生。
ケースにはあらかじめシートを敷いておく必要がある。
この作業も実に繊細なので
その上にピザまんを並べるのはもちろん別の係。


ピザまん (ケース重ね係)


きれいにピザまんが詰められたケースを
8段に重ねろ!
かなりの重労働だ。
上腕二頭筋の筋肉痛は避けられない。


ピザまん (重ねたケース移動係)


8段に重ねたケースを他の人の邪魔にならないように
移動させねば。
ケースは台車に乗っているが油断するな。
万が一倒してしまうと大惨事だ。
気分は倉庫番


☆肉まんチェック


その機械の前に立つと
ガシャンと言う音と共に
右から肉まんが入ったケースが流れてくる。
ケースは升目で区切られていて
その升ひとつに
ひとつの肉まんが入っている。
ちゃんと肉まんが入っていればOK
そのまま左へ受け流す。
肉まんが升からずれていた場合は直す。
十数回に1度ずれている。
気を抜いていると殺られるぞ!
肉まんは忘れた頃にずれてくる。


☆串刺し


ベルトコンベアーに乗って
肉まん・ピザまん・カレーまんが流れてくる。
俺はそれをカレーまん⇒ピザまん⇒肉まんの順に串に刺す。
ひたすら刺す。
3つの中華まんがひとつの串に刺さった贅沢な商品だ。
順番は決して間違えてはならない。
繰り返すが
順番は決して間違えてはならない。


☆チョコチップパン4個5個仕分け


今でもトラウマだ。


・・・
作業をしていると時々流れる工場内アナウンスでさえ
退屈な場を盛り上げるには充分だ。


「和菓子課主任T野さん。至急本部までお戻りください。」


「和菓子課主任T野さん。至急第6ラインまでお戻りください。」


「和菓子課主任T野さん。大至急本部までお戻りください!」


和菓子課主任T野さんは
実に頻繁に呼び出されていた。



パン工場へ到着したのが夕方6時。
パン工場を後にしたのが朝6時。


時期は真冬。
工場の前の道路は凍り付いていた。


そんなバイトを重ね
やっとのことでチケットを購入。
さぁ次はインド入国のためのビザだ。


パスポートを持って
九段下のインド大使館に向かう。


さすが大使館。
警備員こそ少ないものの
ドアは硬く閉ざされ
完璧なセキュリティ・・・
・・・あれ?これ開いてなくねぇ?


出発まで2週間を切っている。
我々は半ば青ざめながら近くの警備員に訊ねた。


「あぁ、今日はインドの共和国記念日で休みだよ。」


あぁだから今日警備員少ないのね・・・。


どうやらインド大使館はインド・日本どちらの祝日も休むらしい。


・・・休みすぎだろ。


インドまでの道のりは実に険しい。