Sダカネ少年と海岸戦争

※この物語はフィクションでありSダカネ少年は架空の人物です。

 The NAF in the SweLLのVocal&Guitar 定兼 良輔 氏とは一切関係ありません。


Sダカネ少年の家のすぐ裏は
瀬戸内海。


この穏やかな内海には
釣り人のロマン、チヌ(黒鯛)に始まり
アイナメメバル・カレイ・渡り蟹
シャコ・アナゴ・サヨリ・アジ・ハゼ・
スズキ・カワハギ・カサゴ・コチなんてのも。


とにかく年がら年中
釣りの相手には事欠かない。


中でもSダカネ少年のお気に入りは
今がシーズン(のはず)の
アイナメ


その日もSダカネ少年は
仲間達と
水族との戦いに向かった。


本日の戦場は
風早という町にある
とある埠頭である。


信じがたいことだが
実はこの時期波が穏やかな瀬戸内海では
アイナメが泳いでいるところを
肉眼で確認することが出来る。


Sダカネ少年の釣りの方法は邪道そのもの。


竿は100円ショップで買った
ほぼ棒。


仕掛けは
イワシなどを釣るときに使う針がたくさんついたサビキ。
本来オキアミなどの撒き餌を入れるサビキかごには
「石」を入れる。


それを沖に向かって
おもくそ投げる。


「ぉぉおおおおらぁぁぁぁーーーー!!!」


そして着水と同時に糸を巻き
泳いでいるアイナメ目掛けて一直線。


「死ねぇ!!アイナメェェェェ!!!!」


すさまじい勢いで
アイナメの腹部に突き刺さる
何本ものサビキ針。


「おっしゃぁ!!また釣れたでぇ!!」


周りの普通の釣り師はどん引きである。


Sダカネ少年は銛(モリ)も使う。


自分の銛ではない。
近くの釣り船から拝借したものだ。
Sダカネ少年の持論は
『海のものは俺のもの、俺のものは俺のもの』


「いやぁこの銛はえぇやつじゃけんねぇ。
 見てみぃ!ひもがついとるじゃろう?!
 このひもを腕に巻いとけば銛を投げて魚を仕留めれるんよ!」


仲間達に自慢するSダカネ少年。
繰り返すがもちろん自分の銛ではない。



「おい、こっち来て見てやー!!
 ハゲ(カワハギ)が泳いどるでーーー!!」
仲間のひとりが叫ぶ。


この時期ハゲ(カワハギ)も肉眼で確認できるほど陸の近くを泳ぐ。


「なにぃ?!ハゲ(カワハギ)じゃとぅ?!
 ぶちレアじゃないか!!待っとれーーー!!」


銛を振りかざし
駆け出すSダカネ少年。


「おお!ほんまにハゲ(カワハギ)じゃ!!
 くらえぇぇ!!!」


カワハギ目掛けて銛を投げつけるSダカネ少年。


しかし不発・・・。


「くそぅ・・・。ハゲ(カワハギ)めぇぇ・・・。」


「おーーーいこっちにもハゲ(カワハギ)がおるでーーー!」


「なにぃ待っとれハゲ(カワハギ)ーーー!!」


「ハゲ(カワハギ)がこっちにも現れたでーー!!」


「おっしゃぁ!!ぶち殺したらぁぁ!!ハゲ(カワハギ)がぁぁぁ!!」


「ここにもハゲ(カワハギ)じゃぁーーー!!」


「おっしゃぁ!!覚悟せいハゲ(カワハギ)ェェェ!!
 この銛でひと突きじゃぁ!!」


銛を振りかざし
奇声を発しながら
埠頭中を走り回るSダカネ少年。


・・・徐々に姿を消す周りの釣り師達。


そして案の定鳴り響くサイレン。
警官の登場である。
「おまえら、なにしようるんならぁぁぁ!!!」


「いや、釣りですよ。」


「ガラの悪い連中が銛持って暴れようるゆうて通報があったんじゃ!!
 だいたいその銛はどっから持って来たんじゃ?!!」


「そこの船の中に落ちとったんです。」


「銛が落ちとるかぁ!!」


「いやハゲ(カワハギ)がおったんで
 銛で突こうか思うてねぇ。」


「おまえらみたいなんが銛持って走り回っとたら
 そら警察に通報も来るわ!!
 もっと周りに迷惑にならんように遊べぇ!!」


「はぁ、わかりました。
 でも銛はちゃんと返しときますよ。」


「あたりまえじゃぁ!!」



Sダカネ少年と水族との戦いは
季節を越えて繰り返される。



― Sダカネ少年と海岸戦争 ―

          『完』