chapter9 バリ舞踊


名前の由来も不明。
何のために作られたのかも不明。
その壮麗さとその巨大さにもかかわらず
なぜか人々から忘れ去られ
1000年以上もの間
歴史から消え去っていた謎の石窟寺院群
世界遺産ボロブドゥール寺院遺跡群。


を、素通り。


暗闇の中
月世界のような
クレーターの中の砂漠を抜けると
白煙を噴き上げ
うねりをあげる噴火口。
夜が明け
空が蒼くなっていくにつれ
次第に色づいていく
雲の上の山々。
まさに神によって作られた
絶妙なバランスの色彩と構図。
火の神の住む聖なる山
ブロモ山。


も、素通り。


世界遺産プランバナン寺院群も素通り。


11月11日にソロで行われる祭
ティンガラン・ダレム・ジュメネンガン。
「そんな祭り聞いたこと無いぞ?!」と町の人談。


ロビナのイルカウォッチング。
影も形も見えず。


「全然観光っぽいことやってねぇーーー!!」
O野峰の悲痛な叫びが響くウブドでの朝。


「確かに・・・。」


「いいんじゃん別に?」


「良くねーーよーー!!一応卒業旅行だぜ!?」


というわけで
夜にケチャを見に行くことにした。


ケチャとは
男性による動物の鳴き声を模倣した声と
その声の波の中で繰り広げられる舞踏劇である。
上半身裸で腰布を巻いた数十人もの男が
円陣を組んで座り
「チャッ」「チャッ」と言う声を
それぞれのパートごとに異なるリズムで発する。
その声が、混ざり、重なり
「ケチャケチャケチャケチャケチャケチャケチャ・・・・」と
トランス的なうねりになる。


その宗教的、神秘的な見た目から
バリ島先住民の儀式かなんかじゃないかと思っていたが
どうやらバリ人とドイツ人画家によって創作された
「観光向け」の劇らしい。


はっきりいって劇のストーリーが分からないと
なにがなんやら良くわからない。
劇団によってもレベルの差があるらしく
どうやら我々が見たのはハズレ。


なにやら円陣の後ろのほうに座ってる劇団員のやつらが
ニヤニヤしながら喋ったりしている。
開始早々にストーリーを見失い
暇だったのでそいつらのアフレコをしてみる事にした。


『だりーーなーー。あと15分ってとこか・・・。(アフレコ)』


『今日も客少ねぇな〜・・・。この分だと今月も減棒だぜ?(アフレコ)』


『まじかよ〜。俺今月自転車買ったばかりだってのによ〜・・・。(アフレコ)』


『まぁまぁ、ところでいい店見つけたんだけどこの後どう?
 すげぇかわいい女の子がいるんだよ〜。(アフレコ)』


『いいねぇ〜。さっさとこんな仕事終わらせて行きますか!!(アフレコ)』


そこで前に座っている先輩劇団員が振り返る。
『おい、おまえら!!くっちゃべってねぇで
 ちゃんとチャッチャ、チャッチャ言えよ!!
 この仕事あんましなめてんじゃねぇぞ!!(アフレコ)』


『すんませーーーん。
 はーーーい、チャッ、チャッ、チャッ
 チャッ、チャッ、チャッ・・・と。(アフレコ)』


『まったく・・・こんなん俺ひとりさぼってても
 わかりゃしねぇよ。
 チャッ、チャッ、チャッ
 チャッ、チャッ、チャッ・・・と。(アフレコ)』


また振り返る先輩劇団員。
『おい!もうちょっと真面目にやれ!!
 ・・・あとその店俺も行くからな!!(アフレコ)』


『すんませーーーん。
 はーーーい、チャッ、チャッ、チャッ
 チャッ、チャッ、チャッ・・・と。(アフレコ)』


『あの人も好きだなぁ〜。
 チャッ、チャッ、チャッ
 チャッ、チャッ、チャッ・・・と。(アフレコ)』


こんな感じである。
もちろんちゃんとやってる劇団もあるだろうが。


次の日もレゴンダンスというバリ舞踊を見に行ったが
こちらは割と楽しめた。


ただ一番楽しいのは
町中のレストランで行われている公演を
ビールでも飲みつつ壁の向こうから覗き見ることだったりする。
会場から洩れてくる
ガムランの調べを聴きながら。