滝のスイッチ


滝のスイッチを切る。


滝が止まったのを確認する。


庭園灯のスイッチを切る。


庭園灯のスイッチ以外は触れてはならない。


車のナンバーをノートに控える。


2階へ上る。


シャンデリアの電気を消す。


トイレの電気を消す。


3階に上る。


エレベーター前の電気を消す。


鍵が開いている部屋をノートに控える。


廊下の電気が消えていたら


電球を取り替えなければならない。


4階から7階まで同様に回る。


7階のリネン室の鍵を開ける。


中から自分の寝具を取る。


フロントの寝具も用意する。


N氏の場合は


シーツ2枚・枕カバー1枚・ハンドタオル1枚


そしてお茶のティーバッグ5〜8つ。


10個を超えてはならない。


I氏の場合は


シーツ2枚・枕カバー1枚・ハンドタオル1枚・歯ブラシ1セット


K氏の場合は


なにも必要ない。


翌朝


昨夜消した電気をつけて回る。


全てつける。


つけ忘れてはならない。


朝刊を挟む。


自動ドアの電源を入れる。


コンセントを差すだけだ。


もしその日がゴミの日であればゴミを出す。


祝日のゴミ出しは無い。


滝のスイッチを入れる。


滝が再び動き出したのを確認する。



・・・月に7回ほど通っている
夜勤先の仕事内容である。


こう書き出すと実に胡散臭い。


『滝のスイッチ』なんて
よくわからない日本語を
日常使っている人間は
周りに何人もいないだろう。


最近はその『滝のスイッチ』に
油性マジックで
『バター』なんて書いてあるもんだから
謎は深まるばかりである。