第19章 THE BUS


インドのバスステーションはさわがしい。


ボンベイボンベイボンベイボンベイボンベイボンベイボンベイボンベイボンベイボンベイボンベイボンベイボンベイボンベイボンベイボンベイ・・・」
なんか、ずっと聞いているとテクノみたいだ。
バスの行き先を息の続く限り連呼する係の人間。
「チャ゛〜イ゛チャイ゛チャイ゛、チャ゛〜〜イ゛チャイ゛チャイ゛・・・」
なんであんなダミ声なんだろう・・・?
ポットを持ち歩く、おそろしいほど活力を感じさせない流しのチャイ屋。
「プリガナプリガナプリガナプリガナプリガナプリガナプリガナプリガナ・・・」
・・・あれはいったいなにを売っている人なんだろう・・・?
怪しい紙袋を持ち歩くいかにも胡散臭い男。


バスステーション自体はものすごい活気だが、チケット売り場は列車の駅ほど混雑していなかった。
今回も夜便のバスのチケットをゲット。
セミ・デラックスクラスのバスだ。


さて出発前に腹ごしらえ。
若干腹の具合はあやしかったが
バスステーション内にあった石造りの暗い食堂で、チャーイとサモーサを注文。
このサモーサという食べ物、茹でたジャガイモをスパイスで味付け皮でくるんで揚げたスナックなのだが
とにかくうまい!
飯の当たり外れの大きいインドで
このサモーサだけはどこで食ってもうまかった。



軽い食事を終え、バスの出発時間が近づいてきたのでバス乗り場へ。
明らかに前回よりぼろいバスが到着。
もうこのあたりでどのへんにデラックスな要素があるのかはつっこまないようにしていた。


バスに乗り込みチケットを確認して予約した自分達の座席へ。
が、そこには既に悠然と座るインド人2人。
少し困惑したが、そのインド人にチケットを見せてもらう。
彼らの席はここで間違いない・・・。
我々も自分達のチケットを確認し直す。
こちらも間違いない・・・。


日付も同じ、バス番号も同じ、席番号も同じ。


・・・まさかのダブルブッキング!!



我々はバスの運転手に文句を言いに行く。
(まぁ文句というより、頼むから何とかしてくれという感じだったが・・・)


チケットを見せると、バスステーションの係の者らしい男もバスの中に入ってくる。
運転手のおっさんと一緒にインド人2人とうだうだ揉め始める。
さらに、よせば良いのに近くの席に座っていた係の者でも何でもない乗客のおっさんも参戦。
我々が呆然としている前で揉めに揉めるインド人達。
なぜか近くの席のおっさんが一番ヒートアップ。


しばらく口論が続いた後で、
ものすご〜く不満そうにバスを降りるインド人2人。


そして、一番興奮していた近くの席のおっさんが
空いた2つの席を指差し、お決まりの一言。



「カモンッ!!ノープロブレム!!!」



・・・


気まじぃ・・・。


席に座れたはいいがすさまじくぴりぴりした空気・・・。
心なしか他の乗客の視線が痛いような・・・。
そのなかでひとり満足げに座る近くの席のおっさん。


あのインド人2人はどうなったのだろうか・・・。
明日のバスに変えるのだろうか・・・?



そんなことを考えているうちにバスが走り出す。





・・・


気まじぃ・・・。




     つづく