その7 ハイデラバード ― インド ―


ムスリムの町は面白い。


特にインドでのムスリムの町は非常に魅力的だ。
彼らイスラム教徒の教義が故か、
それとも宗教文化がそうさせるのか、
はたまたインドではマイノリティである彼らに対する
歴史的背景が影響しているのか、
とにかく、ムスリムの町はエネルギーに溢れ
熱気を帯び、混沌が渦を巻いているような印象を受ける。


ムスリムにとって「アーバード」は町を意味する言葉で
インドではアウランガーバードやアフマダーバードなどが
ムスリムの町だ。
そして東インドにあるハイデラバード(ハイダラーバード)も
魅力的なムスリムの町のひとつ。



熱気、エネルギーという点で
旧市街のナイトバザールは凄まじい。
店先に生肉をぶら下げた肉屋や
カラフルな金属の腕輪を並べた屋台、
山のように果物を積み上げた荷車、
煙をあげる食堂、金物屋、服屋、八百屋、時計屋などが
道路脇にところ狭しと並び、
暗がりの中で目だけがぎらぎらとした人々が行き交う。
ラクションは絶えず鳴り響き
リクシャーや車のヘッドライトが
ぐるぐると回り続ける。
その渦の中心にあるのが
秩序だったイスラム建築、チャール・ミナール。
4つの尖塔を持った線対称の美しい建造物だ。
まるでこのチャール・ミナールを中心に
混沌の渦が広がっているかのような錯覚を覚え
自分もその渦の中にいると思うと
否が応でも気分が高揚してくる。


この町のもうひとつの楽しみは
ハイデラバーディー・ビリヤーニー。
いわゆるマトン・ビリヤーニー、簡単に言えば
マトンとスパイスの炊き込みご飯のような料理だが
ここハイデラバードのビリヤーニーは絶品である。
マトン、おそらくここではヤギ肉なのだが
その濃厚な味と香りは癖になる。
スパイスの使い方も絶妙で、
ライタ(ヨーグルトサラダ)や黒ゴマのチャツネなど
味に変化も作れるのも楽しい。
個人的には今まで食べてきたものの中で
ベスト5に入る美味さ。
おすすめの店はシャダブ。
チャール・ミナールの近くにあるレストランだ。
ハイデラバードにまた行くことがあれば
この店にはぜひ行きたい。



他にもハイデラバードには見所が多い。
ドラ●ンクエストやファイ●ルファンタジーの世界を
冒険しているような気分になれるゴールコンダ・フォート。
ハイデラバードの7人の王が眠る王たちの廟。
約1万人の参拝者を収容できる
超巨大なモスク、メッカ・マスジット。



間違いなくインド旅行を彩れる素晴らしい町のひとつだと思うのだが
難点はインドの各ゲート都市から遠いことか。
デリー、ムンバイ、チェンナイ、それぞれのゲート都市から
列車で15時間〜20時間はかかってしまう。


ただ、それでもハイデラバードには強く惹きつけられる。
インドの他の町では味わえず、
例えばインドネシアなどのイスラム教国でもそうそう出会えない
ムスリムの熱気」に触れ、その圧倒的なエネルギーの渦に潜れる町。


「旅は面白い」と思える町のひとつだ。