第5章 ― コラート ―


「チケットを見せて。」


裏声だ。
格好からバスの乗務員であることはわかる。
膨張した身体。
凛々しく濃い眉毛。
髭を剃ったあとの残る口元に
赤紫色の口紅。


バスの乗務員がオカマ?
いや、もしかしたら極めて男性的なおばちゃんかも知れん。


確認のため切符を渡す。
切符を受け取るときに
袖から覗く濃い腕毛。


ここは自由の国、タイ。
オカマのバス乗務員も当たり前にいるのかもしれない。



バスはノンストップで4時間走り続け
コラートに到着。


なんてことは無い
普通の町だ。
都会でもなく
田舎でも観光地でもない。
ちゃんと普通の生活がある町。
雰囲気はインドのプネーや
インドネシアのソロに似ている気がした。


もう昼飯時もだいぶ過ぎていたので
開いている食堂もなく
遅い昼飯は朝と同じく
屋台のバミー・ナーム
チャーシューの代わりに
焼き鳥の薄切りのようなものが入っているのが
焼き鳥が名産の東北地方らしい。


宿は600バーツ、約1500円のビジネスホテル。
洗濯をしたり、銀行の出張所へ両替に行ったり
突然の雨に打たれたりしているうちに
夜になった。


晩飯がてら夜の散歩へ。
夕立が通ったおかげで
涼しい夜だった。


町の東、旧市街にあるナイトバザールを冷やかし
その近くの広場で、ライトアップされた英雄っぽい人の像を写真に収め
屋台で晩飯。
カーオ・マン・カイ。
鶏のスープで炊いたご飯の上に
蒸し鶏が乗っていて
そこに甘辛いタレをかけて食う。
日本のタイ料理屋でも見かける定番の屋台飯だが
イカロリーな割りにあっさりとしていて美味い。
あと、付け合せのキュウリが美味い。
インドでもそうだったが
南国のキュウリは肉厚でジューシーで
香り高く、本当に美味い。


帰りにセブンイレブンでビールを買い
屋台で焼き鳥をテイクアウト。
2本で10バーツ。


ホテルの部屋で晩酌。
焼き鳥は日本のよりやや甘辛いタレ焼き。
歯ごたえがしっかりしていて
噛み締めるほど旨みが染み出る。
いわゆる宮崎とかの地鶏に似た味わい。


タイに来てまで
屋台で飯食って、部屋で焼き鳥とビールという
サラリーマン的な夜を過ごし
明日の移動に備え
少し早めにベッドへ入る。



また雨が降ってきたようだ。


スコールのような強い雨
屋根を絶え間なく叩く音を聞いているうちに
眠気に誘われた。