その3 陽朔(ようさく・ヤンシャオ) ― 中国 ― 


南中国、広西チワン族自治区にある観光都市、桂林。
この町では、山水画のような風景が広がる漓江という大河を下る
漓江下りが観光のメインとなるが
その河下りの終点にある町が陽朔だ。
バスで行くなら約1時間半。


陽朔は小さな町だ。
歩いて回れるくらいの規模が
旅にはちょうど良い。
メインストリートである西街の両脇には
白壁の店舗が軒を連ね
温泉街のような趣きがある。
白壁の店舗はそれぞれホテルやみやげ物屋、雑貨屋やレストラン、カフェだったりして
色とりどりのパラソルや木のテーブルも並び
海こそ無いものの
リゾート地としての趣きもある。
町の中を流れる小さな水路があり
アーチ上の飾り物のような短い橋が掛かっていて
散歩しているだけでもテーマパークに来ているようで楽しい。


昼間はレンタサイクルで郊外に足を伸ばすのも良い。
自転車はレンタサイクル屋や店を構えていない怪しいレンタサイクル商から借りられる。
車もほとんど通らない打ってつけのサイクリングロードを風を切りながら走る。
道路脇には陽の光をはじいた黄緑色の水田やイカダが浮かぶ河、
まさに中国といった感じの、峰の丸いカルスト地形特有の山々が映し出されていく。



陽朔は夜も賑やかだ。
町中がリゾート地のディナーパーティーや縁日のように盛り上がっている。
町の至るところから魚や肉を焼く煙があがり
オープンエアの店先から人々の笑い声が溢れてくる。
陽朔でぜひ味わいたいのが
名物の陽朔ビール魚とタニシ。
陽朔ビール魚はパリパリになるまで揚げた川魚を
唐辛子やにんにく、醤などとともにビールで煮込んだ料理。
中華料理特有の芳ばしい香り。
パリパリの皮。
ふっくらとした身。
淡白な白身魚の身と中華の濃い味付けがベストマッチのご飯が進む一品。
タニシも絶品。
普通に炒めたものもあるようだが
どうせなら一度身を取り出して再度、肉詰めにした田螺醸を。
取り出した身を刻んでひき肉やにんにく、唐辛子、ミントなどとこねあわせ、餡にしてまた詰める。
内臓などは捨てるし泥もしっかり落とすから臭みも無い。
口に入れるととんでもなくジューシーで
こってりとしていてそのくせ後味はくどくない。
こちらはご飯も良いが、ぜひチンタオの生ビールと一緒に。


ちょっと酔っ払って宿に戻る途中に
道路脇のライブハウスから漏れるポップミュージック。
壁がガラス張りなもんだから
中の様子が伺え、熱演しているアーティストと
熱狂しているオーディエンスを見ると
ついついふらっと立ち寄りたくもなってしまう。


きらきらとした
浮き足立った
ゴアやバリと同じく、旅の後半に持ってきたい町、陽朔。



町をあとにし、桂林に戻るときは漓江をイカダボートで上って。
自転車から眺めるのとはまた違った
水墨画のなかに入り込んだような景色を楽しめる。
旅のハイライトにはもってこいだ。
ボートのモーターの音と
イカダが掻き分ける水しぶきの音を聞きながら
ぼんやりと山々を見上げるのが実に心地良い。



広州と広西チワン族自治区を回った南中国旅行は
初のひとり旅だった。


誰にも気を使わず
自分のペースだけで動ける気ままな旅。
それはそれで楽しい旅だったが
この町、陽朔は
誰か友人とでもまた来たい町であった。