第17章 ストレンジジャーニー


ホスペット発
ドガオン行き。
ドガオンの先に待つのは
かつてヒッピーの聖地と呼ばれたゴアだ。


ゴアを訪れるのは
7年前のファーストインディア以来。
その時もかつてのような
ヒッピーの聖地としての表情は薄れてしまっているように思えたが
それでもポルトガル領として時代を歩んで来た独特の町並みは
また異質なインドを見せてくれたし
なによりアラビア海に沈む夕陽は
一日の終わりを
美しく染め上げるのに充分であった。


我々はその燃え落ちるような美しい夕陽と
その後の影時間とも言うべき
ビーチでのシーフード三昧を
この旅の締めとすべく
今ゴアに向かっている。


列車のクラスはスリーパー。
いわゆる2等寝台なのだが
このクラスでの列車移動は
インドの庶民達と触れ合う機会も多く
(あくまで貧民ではなく庶民なのだが。)
それがまた列車の旅を面白くさせる。
特に昼間は車窓からの風景もさることながら
車内の光景も飽きをこさせない。


ボックス席の向かい側は
小さい女の子を連れた
インド人の家族であった。


小さい女の子は
窓から楽しそうにペットボトルをポイ捨てしている。
ポイ捨てと言っても
インドの列車は窓に鉄格子がはまっているものだから
ペットボトルを潰して
鉄格子の隙間を潜らせないとポイ捨て出来ない。
ペットボトルを手に取る。
パキパキと潰す。
鉄格子の隙間から押し出す。
その一連の流れがまるでゲームのようで
女の子はキャッキャ言いながら
ペットボトルを捨てている。
そしてその楽しそうな娘に
隣の母親がどんどん新しいおもちゃ(ペットボトル)を与える。


・・・エコではない。
今流行りのエコではないが
その光景はほのぼのと暖かいものであった。
賛否あるだろうが
捨てる人がいて
拾う人の仕事が成り立つインドならではかもしれない。


旅の疲れと旅の終着への寂寥感から
ぼーーーっとそんな光景を眺めていると
今度は斜向かいに座っていたおっちゃんが
鼻息を荒げて声を掛けてくる。


「おい、ジャパニ!準備しろ!
 滝だ!間もなく滝が見えるぞ!!」


えっ?なになに?
滝??


言われるままにデジカメを構える。


右手の車窓には
西ガート山脈のたおやかな峰々が連なり
やがてその合間から
大きな滝が零れ落ちているのが見えた。


シャッターを切る。


「どうだ?!ジャパニ?!撮れたか?撮れたか?!
 それはデジタルカメラか?!
 見せてくれ!!」


おっさんの興奮につられ
ちらちらと様子を伺っていた近くの席のインド人達も
わらわらと集まってくる。


「おーーー!これがデジタルカメラか?!」


「ジャパニ!これはソニーか?!」


「何ルピーするんだ?売ってくれ!」


やはりコミュニケーションツールとしての
デジカメは素晴らしい。
広大なインドの国土。
我々のような旅行者でなければ
行った事がない
いや、むしろ現地の人が一生行くことがない町というのも
結構多いのだ。
そんな町々の写真が会話を盛り上げる。



しかし
インドの男達を最も盛り上げたのは
トンネルであった。


列車がトンネルに差し掛かった瞬間
車内に大きな歓声が沸き起こる。


さらには
車両の前方
列車の連結部あたりから
男達の奇声が響く。


「オーーールェーーーィ!!!」


ショアーーーーーーー!!!」


「ピーーーーーーハァァーーーーーー!!!」


最初はなにが起こっているのか
全くわからなかった。
なんだなんだ?
気になって列車連結部に走り寄ってみる。


そこに居たのは
トンネルに入るたびに
列車から身を乗り出し
こぶしを突き上げ
奇声を発して大ハッスル中の
大の大人達。


そうか!
列車での長距離移動なんて
外国人旅行者以外にとっては
一大イベント!
トンネルはその中でも
最大のアトラクションなんだ!


なおも笑いと歓声がこだまするなか
奇声を発し
踊るインド人。



一息ついて
自分の座席に戻ると
その男達の奥さん達が
苦笑いを交え談笑中。


「まったくうちの旦那のトンネル道楽には困ったものですわ〜。」


「まったく男なんていくつになっても子供ですわよね〜。」


そんな会話が聞こえてきそうだ。




間もなく
黄金の都ゴア。









つづく