第9章 Train for BANGALORE


けたたましい電子音で目が覚める。
早朝6時。
昨夜はほとんど眠れなかった。
30度を超える蒸し暑い夜。
風邪対策のためファンを止めて寝たのが
仇となった。
暑いし外はなぜかうるさいしで
眼を閉じても眠れやしない。
やっと涼しくなってきて
まどろんできたと思ったらもう朝だ。


列車の時間まで
1時間ちょっと。


我々は寝ぼけ眼で荷物をまとめ
宿を後にした。


外は涼しかった。
この時間帯が
インドで一番涼しいのかもしれない。


駅にはものの5分で到着。


まだ時間はある。


「チャイでも飲むか?」


「そうだな。1日の始まりはチャーイだ!」


早くもインドナイズドされている。


駅構内を見回すと
この時間から既に営業している売店が眼に留まった。
店先はインド人でごった返している。
チャイはあるはずだが・・・。


「なんかすげぇ込んでね?」


「いや、でもチャイ飲むでしょ!?」


「飲むでしょう!」


店先のインド人たちを掻き分けて
チャイ売り場に突っ込む。


ここも鉄道窓口と同じ。
黙って立っていると次から次へと割り込みされる。
腕を伸ばして進路を確保し
足を伸ばして牛歩し
背中で気配を察し
肩で威嚇し
やっとのことで売り場のカウンターに手をかける。


「ヘイッ!スリー、チャーイ、プリーズ!!」


とんでもない大きさの釜の中でチャイをかき混ぜながら
こちらを一瞥する店員。


「ノー!チケット!!チケット、ジャパニ!!」


ここも食券制?!


仕方なく店の裏にあった
これまたインド人でごった返す食券売り場でチケットを購入。


そしてまた割り込みインド人達と激戦を繰り広げ
なんとかチャイを3つゲット。


「熱っ!!熱い熱い!このチャイ熱過ぎ!!どいてどいて!!」


人ごみを掻き分け
店から離れ
やっとのことで朝食にありつく。


わずか3ルピー。
1杯9円のチャイながら
激戦を制した充実感と安心感から
やたらとホッとするチャイであった。



その後
始発駅にも関わらず列車は30分遅れて
チェンナイ駅を出発した。


バンガロールまでは約6時間。
鉄格子が入った窓を開けると
心地よい風と強烈な日差しが差し込んでくる。


この環境は・・・


洗濯物を干すのにぴったりじゃないか!!


実は昨日の夜
早速バスルームで洗濯をしたのだが
あまりの蒸し暑さに靴下などが乾ききらず
生乾きの洗濯物をビニール袋に入れ持ち歩いていたのであった。


鉄格子に洗濯ばさみを結びつけ
靴下を挟む。


窓からの風に揺られる
黒い靴下。


いやー良いじゃない!
これはあっという間に乾きそうだ。


洗濯物を吊るしたまま
列車はバンガロールへ向け
順調に飛ばし行く。



1時間もすると
早速売り子が声を張り上げ
車両内をうろうろしだした。


「アールーチョップ!アールーチョップ!!アールチョ、アールチョ・・・」


お、あれは!!


「ヘイヘイッ!スリー、プリーズ!!」


すかさず購入。


このインド風コロッケは俺の大好物だ。
スパイスで絶妙に味付けされたホクホクのジャガイモが
こってりとした衣に包まれている。
それをチリケチャップに付けてほおばる。
実に美味い。


いやー良いじゃない良いじゃない。
列車の旅最高じゃない!


そのとき
ふと頬に冷たい感触が。


あれ?


あれ?!


雨?!!


外が暗くなったのに
気づいたのも束の間
一瞬にして大粒の雨が降り注ぐ。
スコールだ!!


「窓閉めろーーー!!」


急いで木の雨戸をおろし
ガラス窓も閉める。


窓は閉まりきらず
サッシからは水滴がこぼれる。
・・・なんとか・・・大丈夫か?
危ない危ない・・・。
せっかく乾かした靴下がまた濡れるところだった・・・。


通り雨のように雨はすぐやんだ。
窓を開けると
また心地よい風が吹き込んできた。
列車の進行方向をのぞき見ると
流れた雲の隙間から
鮮やかな虹が現れ
そのうち空へと溶け込んでいった。



列車はなおも西に進む。









つづく