chapter2 アイスコーラ


あれは確かインドネシア4、5日目。
我々は東西に広がるジャワ島のちょうど真ん中辺り
ソロという町にいた。


今日もぶらぶらと町を歩き回る。
U君と2人だ。


もう一人の旅仲間O野峰は
ひどい下痢と発熱で
クーラーも無い暑い宿の部屋で寝込んでいる。


「あいつ気合足りねぇよなぁ。」
などとしゃべくりながらうろつき続ける。
途中、暑さを避けるためスーパーマーケットへ。
クーラーが効いているスーパーは最高だ!
海外ならではの怪しい商品達は
否が応でも我々のテンションをあげさせる。
炭酸入りのアクエリアスを発見した時など
大はしゃぎだ。
「いや、これスポーツの後キツイでしょーー!!」


しかしそれもつかの間。
ふいにU君の顔色が変わる。


「んっ?あれ?なんか俺やばい・・・。先に宿戻るわ・・・。」


O野峰に続いてU君もダウン。
一人でそそくさと宿に戻っていく。


U君とO野峰はこのインドネシア旅行が初海外だった。


うーんそうそう俺も初海外でインドに行った時は
体調崩したなぁーーー。
わかるーわかるよーー。
しかし俺も頑丈になったもんだ。
インドでの免疫が効いてるね。
もはやインドネシアぐらいでは体調崩さなくなったな。
今度生水にも挑戦してみるか・・・。


などと変に旅慣れした上から目線で調子に乗っていたが
ものの5分後。


えっ?あれ?
やばい?
この感覚はどっかで・・・。
インド?インドの時の状態か?!
やばい!!ダメだ!!


わかっていたはずだった。
インド旅行で学んだはずだった。
気合だけでは体調はどうにもならんことを。


そして俺も宿へ全力ダッシュ
トイレに駆け込み
その後、O野峰、U君が横たわるベッドの
隣のベッドへ倒れこむ。


まさかの全滅である。


さすがに3人が一度に倒れるとは思っていなかった。
思い当たる節はある。
アイスコーラだ。


――あれは2日目のことだった。
首都ジャカルタから東に進もうと思った我々だが
さすがに初っ端から10時間を越える列車の旅はつらい。
なによりこのジャワ島をそんなに早く通り過ぎてしまうのは
もったいない気がしていた。


そこで少しだけ東に進もうということで
近くのバンドゥンという町まで行くことになったのだが
列車の出発時刻までまだ時間があったので
近くの食堂に入ることにした。
食堂と言っても壁など無く
屋根も細い木を組み合わせているようだが
隙間だらけで
あっても無くても同じような屋根だ。


木製のテーブルには汚い布がかけられ
オブジェだろうか?大げさではなく触るとやけどしそうなほど
カンカンに温まった瓶入りのコーラやスプライトがおかれている。


我々はナシゴレンやサテ(焼き鳥のようなもの)をたいらげ
さて一服ということで
食後にジュースも頼むことにした。


メニューを見ると
『コーラ』・・・その下に
『アイスコーラ』・・・。


・・・アイスコーラ!?


値段も普通のコーラより一回り高い。


こいつは冷ややかでうまそうだ!


そして我々はアイスコーラを注文。


どんなものが来るのかと心待ちにしていると
後ろでカツンッカツンッと音が響いた。


振り返ると従業員の男が
青いビニールシートを引っぺがし
中に包まれていた大きな氷の板を削っていた。


まさかとは思ったが
その氷がグラスにたっぷり入れられ
我々のテーブルに差し出される。


なんだ、アイスコーラのアイスって氷かよ!
おそらくコーラを頼むと冷えてないコーラ
アイスコーラだと氷が入って若干冷たいコーラということなのだろう。


しかし、胃腸の弱い日本人には生水、
およびその生水でつくられた氷は厳禁だ。
塩素入れまくりの日本の水道水と違って
衛生的に万全ではなく
腹を壊したり細菌性の下痢を引き起こしたりするらしい。
さすがにコレラという話は最近聞かなくなったみたいだが。


それでもこの暑い陽射しの中ビニールシートにくるまれ
何から作られているかわかったもんじゃないこの氷はかなり危険だが
まぁ地元民は飲んでるんだしという曖昧な安心感と
3秒ルール(落ちたものでも3秒以内に食えば大丈夫)
という何の根拠もない確信を背景に


「氷が解ける前に一気(3秒以内)に飲めば大丈夫だろ!!?」


という結論に我々は達した。


さてそんなことを考えていると
ふいに従業員の手が
テーブルの上でインドネシアの陽射しを浴び続け
カンカンに温まったコーラに伸びる。


えっ!?まさか?!!
いや?!それは?!!
ちょっまじで!!?


心の叫びも届かず
氷の入ったグラスにたっぷりと注がれる
沸騰寸前のコーラ。
あっという間に姿を消す氷たち。
溢れ出す細菌(イメージ)。


出来上がったアイスコーラを指差しながら
従業員がこちらをちらりと見て笑顔で一言。


「ヘイッ、アイスコーラ!!」


飲まざるを得ない・・・な・・・。――



ベッドの上で朦朧としながら
あのバンドゥンでの1日を思い出す。


横のベッドで横たわっていたO野峰が
うわごとの様につぶやく。


「絶対、あのアイスコーラが原因だよぉぉ・・・。」




  つづく