第22章 IN AURANGABAD


相変わらずバスで消耗しながら我々はアウランガーバードに到着。
プネーからバスで8時間、インド西部に位置するここアウランガ−バードは
世界遺産の石窟寺院があるアジャンタ、エローラへの玄関口としてしばしば観光客も訪れる町だ。



新しい町についてまずやることは宿探し。
我々は適当な安宿を見つけチェックイン。
重い荷物を置いて町へ。


向かう先は政府観光局のオフィスだ。
どうやらアジャンタへのバスツアーを行っているらしい。
往復のバス代と入場料も料金に含んでいるので結構お得だ。


歩いていると途中で橋の下のドブ川沿いを走り回る野良豚を発見。
インドの野良豚はピンク色ではなく
茶色の毛がフサフサしていた。
いい加減、牛やヤギでは驚かなくなっていたが
奇声をあげて走り回る野良豚は新鮮だった。


その後、特にトラブルも無く政府観光局のオフィスでツアーの予約をし、宿に戻る。


しかし、部屋のトイレで水を流したときにトラブル発生!
便器に水は問題なく流れた。が、タンクにはまったく水が貯まっていく様子が無い。
これじゃぁ次、水流れないじゃぁん・・・。


俺は文句を言いに即刻フロントへ。


フロントで待ち構えていたのは不機嫌そうなゴツいオヤジ。


「エクスキューズミー?」
声をかけると、オヤジはいかにも面倒くさそうにこちらを向いた。


俺はつたない英語で自分の部屋のトイレが使えないことを説明する。


しかし、まったく伝わらない。
オヤジは首をかしげるばかりだ。
俺の英語はそんなにダメなのか??!と思いつつも
何度も説明を繰り返す。


するとふいにオヤジは目を見開き


「OK!ウェイト!!」


と命令口調で言い
フロントの後ろにある棚から何かを探し始めた。


やっと通じたか・・・と安心していると
探し物が見つかったらしく
オヤジは振り返り「それ」を俺の目の前に差し出す。
差し出したものは、


石鹸。


オヤジ一言。
「OK?」


全然OKじゃねぇよ。


自分の英語力の無さにがっかりしつつも更に説明を続けていると
オヤジもいい加減イライラしてきたのか
大声で宿の若い従業員を呼びつけた。


怒鳴るような声で呼びつけられた青年は明らかに不機嫌そうな顔をしている。


オヤジは
「この日本人言ってること良くわかんねぇし、面倒くせぇからお前ちょっと部屋見てこいや。」
というような感じで青年に指示を出した。


青年を連れて部屋に戻ろうとすると
青年の後ろから2、3人の少年も付いて来る。
子分だろうか?


俺は青年と少年達を連れて部屋に戻る。


部屋で休んでいたM上は
なんで俺がいきなり青年達を連れて戻ってきたのか理解できず
困惑しているようだ。


とりあえず俺は青年達を連れてシャワールームへ。
そしてトイレを指差し、―今日何度目になるだろうか―水が出ないことを説明する。
ここまでくれば、さすがに伝わったのだろう。
青年は
「ア〜、OK、OK、OK」
とあきれたようにうなずき、
「なんだ?このバカ日本人は?トイレの水の流し方も知らねぇのか?やれやれだぜ・・・。」
とでも言いたげな顔をしながら便器に近づき
便器の貯水タンクの上部分についていた紐を引っ張り揚げた。


通常ならその紐を引っ張ることによって
貯水タンクの中のフタが開き、
便器に水が流れる仕組みなんだろうが


タンクには水が貯まっていないのだ。
水が流れるはずも無い。


「ん?」
青年は何回も紐を引っ張るが
当然、水は流れない。


困った青年は
今度は少年達に紐を引っ張らせる。


いや、だから流れねぇんだって。


ようやく状況を理解したのか青年達はトイレの周りをいろいろ調べ始めた。
そして、原因がわかったのか、青年は俺に
「ちょっと待っててくれ」と言い残し、少年達を連れて部屋から出て行った。


ちょっと待っててくれと言われ、
5分待ち・・・10分待ち・・・30分・・・。


・・・・・遅すぎだろ?


しばらくの間、部屋でゴロゴロしながら青年達を待っていたが
戻ってくる気配はまったく無い。


いい加減しびれを切らし
フロントのオヤジに文句を言いに行く。


するとオヤジは再び大声で青年を呼びつけた。


階段の下から青年が大慌てでやって来る。
後ろには少年達も一緒だ。


こっぴどくオヤジに叱られたあとで、
ふてくされながら俺について部屋にやって来る青年達。
え〜・・・だって自業自得じゃぁん・・・。
なんでそんなに不機嫌そうなんだ・・・。


そして部屋につくと青年は少年達に指示を出し
またどこかに行ってしまう。
残った少年達は工具を使い
ものの5分でトイレを直し
水が流れるようになったことを確認して
怒ったような声で
「OK?!」


「OK、センキュー・・・。」


・・・なんで俺が逆ギレされにゃならんのだ・・・。


つうか、そんなに簡単に直せるんなら最初からやれよ・・・。




なんか無駄に疲れた。



不機嫌なオヤジと、不機嫌な青年と、不機嫌な少年達が運営する宿で
アウランガーバードの夜が更けていく。




      つづく